唯真伊由
違和感を抱えたまま、最初に選んだ仕事
第1章|第3話
違和感を抱えたまま、最初に選んだ仕事
そんな言葉にならない違和感を抱えたまま、
私が最初に選んだ仕事が、保育士でした。
子どもが大好きで、
迷いはありませんでした。
毎日、36人の子どもたちと向き合う時間は、
忙しくても、確かに幸せでした。
名前を呼ぶ。
表情の変化に気づく。
昨日より少し成長した姿を見つける。
その一つひとつが、
私にとっては喜びで、
「この仕事を選んでよかった」と思える瞬間でもありました。
けれど、
現場に立って初めて知ったことがあります。
保育士の仕事は、
子どもと向き合う仕事であると同時に、
父兄の感情と向き合う仕事でもある、ということ。
20歳の私にとって、
それは想像以上に大きな壁でした。
子どものことを心配する気持ち。
小さな変化を見逃してほしくないという願い。
我が子を守りたいという必死さ。
頭では分かっていました。
でも、感情として受け止めるには、
私はまだ若すぎたのだと思います。
ある日、父兄の方から
強い口調でこう言われました。
「先生にとっては36人かもしれないけれど、
私にとっては、たった一人の子どもなんです!」
その言葉を聞いた瞬間、
胸がぎゅっと締めつけられました。
何も言い返せませんでした。
否定できなかったからです。
その方の言葉は、
感情的な八つ当たりではありませんでした。
不安と必死さから出た、
まっすぐな言葉でした。
でも同時に、
私の中にも確かにあった思い。
「私は、36人全員を大切にしている」
「誰一人、いい加減に見ているわけじゃない」
その二つの思いがぶつかり合い、
言葉にならないまま、
ただ頭を下げることしかできませんでした。
その後、子どもたちの顔を見たとき、
胸の奥に小さな無力感が残っていたのを覚えています。
私は、
子どもの味方でいたかった。
そして同時に、
親の不安にも寄り添いたかった。
でも、そのどちらにも
十分に応えられていない気がして、
自分の感情を外に出すことができなくなっていきました。
それでも翌日には、
何事もなかったように笑顔で現場に立つ。
子どもたちには、
関係のないことだから。
そうやって私は、
自分の気持ちを後回しにしながら、
「ちゃんとした先生」でいようとしていました。
今振り返ると、
あの言葉は私を責めるものではなく、
「人の人生の重さ」を
初めて真正面から突きつけられた瞬間だったのだと思います。
人の感情。
人の人生。
人の選択の裏にある不安。
それらを受け止める側として生きる時間は、
このときから、すでに始まっていました。
日々の気づきや、
ふと心に浮かんだことは、
Xでも綴っています。







