未熟な者が幅を利かせる組織に、留まるべきか
目次
――山水蒙・初爻が語る「去る者の知恵」
自己主張の強い人。
要領よく立ち回る人。
言葉巧みに責任をかわし、空気を支配する人。
そうした人たちばかりが評価され、生き残っていく組織に身を置いていると、
ふとした瞬間に、心の奥が冷えていくのを感じることがあります。
「ここに、居続けていいのだろうか」
「自分が間違っているのだろうか」
「もう少し我慢すれば、何かが変わるのだろうか」
この問いは、甘えではありません。
むしろ、感性がまだ死んでいない証です。
この相談に対して立てた卦は、
山水蒙(さんすいもう) 初爻。
易は、驚くほど率直に、
そして冷静に、この状況を映し出します。
山水蒙という卦が示す世界
「蒙」とは、無知・未熟・蒙昧。
しかしそれは、知識量の問題ではありません。
山水蒙が指すのは、
・物事の本質が見えていない
・力の使い方が幼い
・誠実さよりも自己保身が優先される
そうした精神の未成熟です。
自己主張の強さが評価され、
小賢しさが生存戦略になる。
この構造そのものが、蒙の世界です。
初爻が示す決定的な意味
初爻は「始まり」「根本」「基礎」を表します。
つまりこの卦は、
「一時的に荒れている組織」ではなく、
根っこから未熟な構造を持つ組織
であることを示しています。
努力すれば報われる、
誠実でいれば伝わる、
そうした前提が、最初から成立していない。
ここを見誤ると、人は自分を責め始めます。
爻辞を読む
発蒙。利用刑人。用説桎梏。以往吝。
「蒙を発す」。
無知を打ち破る、目を覚まさせる。
この段階では、
優しさや理解は通用しません。
必要なのは、明確な線引きと厳しさです。
「刑」とは罰そのものではなく、
曖昧にしない態度。
迎合しない姿勢。
しかし同時に、
「分かれば、桎梏(手かせ足かせ)を解け」
とも言っています。
つまりこの卦は、
冷酷さではなく、節度ある厳しさを求めている。
そして最後に、決定的な一句。
以往吝。
――このまま行けば、行き詰まる。
「留まるべきか?」への易の答え
山水蒙・初爻は、
「耐えろ」とも
「戦え」とも言っていません。
この卦が問いかけているのは、
あなたの立場です。
もしあなたが、
・教育する権限を持つ
・ルールを作り直せる
・厳しさを行使できる立場
にいるなら、
蒙を発する役割があります。
しかし、そうでないなら。
未熟な世界の中で、
自分の感性を削りながら留まることは、
吝(りん)――
後悔と停滞を生むだけです。
易が示す、本当の選択
この卦は、
「辞めるか、残るか」
という単純な二択を超えています。
それは、
どの世界で自分の力を使うのか
という問いです。
蒙の世界は、
声の大きさと器用さを報酬にします。
しかし、
成熟、誠実、静かな実力は、
別の土壌でこそ育つ。
結びに
山水蒙・初爻は、
こう告げています。
ここは、あなたが育つ場所ではない。
それは敗北ではありません。
逃避でもありません。
未熟さに合わせて自分を歪めない、
知恵ある撤退です。
易はいつも、
「どこで耐えるか」よりも、
「どこで生きるか」を見ています。
成熟を望む人は、
成熟が育つ場を選んでいい。
それが、
あなた自身を裏切らない生き方なのです。







