唯真伊由
きれいになりたい、その奥にあったもの
第1章|第4話
人の外側を整える仕事で、
心に触れていた頃
子どもたちがまだ幼かった頃、
私は姉と一緒にエステサロンを立ち上げました。
長女は小学一年生。
長男は、幼稚園の年少。
今思えば、
その時期に土日も祝日も、
夜まで開いているお店を始めるなんて、
普通なら考えない選択だったと思います。
けれど、不思議と
「できるかどうか」よりも
「やる」という感覚のほうが先にありました。
姉と役割を分け合い、
支え合いながら、
お店は少しずつ形になっていきました。
母としても、
経営者としても、
私はとにかく
ちゃんとしていようとしていました。
約束を守ること。
時間を守ること。
期待に応えること。
忙しさの中で、
自分の気持ちを確かめる余裕は
ほとんどなかったと思います。
エステサロンに来られるお客様は、
「きれいになりたい」
「痩せたい」
そんな言葉を口にされていました。
けれど、施術を重ねるうちに、
私は気づき始めました。
本当に抱えているのは、
肌や体の悩みだけではない、ということ。
仕事のこと。
家族のこと。
誰にも言えずに溜め込んできた思い。
ベッドに横になると、
ふっと力が抜けたように、
ぽつりぽつりと
本音を話し始める方が多かったのです。
私は、
その時間をとても大切に感じていました。
「もっと何かできることがあるのではないか」
そう思うようになり、
エステの技術だけでなく、
人の心に寄り添うための学びを
重ねていきました。
エンジェルイントゥイティブ。
アロマテラピー。
フラワーエッセンス。
資格を取った理由は、
特別な力が欲しかったからではありません。
ただ、
目の前の人の話を、
もう少し深く受け止めたかった。
言葉にならない部分に、
そっと触れる方法を知りたかった。
セッションの中で、
オラクルカードを使うこともありました。
未来を決めるためではなく、
答えを教えるためでもなく。
カードをきっかけに、
ご自身の言葉で
思いを語り始める方が多かったのです。
不思議なことに、
心の悩みがほどけていくと、
お客様の変化は
とても早く現れました。
表情が柔らかくなる。
姿勢が変わる。
体が軽くなっていく。
中には、
痩せていくスピードが
明らかに早くなる方もいました。
その様子を何度も目にするうちに、
私は確信するようになりました。
心と身体は、
切り離せるものではない。
どちらか一方だけを整えても、
本当の意味での変化は起きないのだ、と。
けれどその時の私は、
この感覚を
どう扱えばいいのかまでは
分かっていませんでした。
ただ、
人の外側を整える仕事をしながら、
私は確かに、
人の心がほどける瞬間に
立ち会っていたのだと思います。
それが、
この先の人生につながっていくとは、
まだ知る由もありませんでした。
日々の気づきや、
ふと心に浮かんだことは、
Xでも綴っています。







