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芽百マミム

第6章 守ると決めた日、現実が動き出した

子どもたちを連れて警察署に向かった日のことは、
今でも体の奥に残っている。

手をつなぐ掌は、汗で湿っていた。
子どもたちは何も聞かず、ただ私の歩幅に合わせて歩いていた。
その小さな背中を見ながら、
「ここまで連れてきてしまった」
そんな罪悪感と、
「もう戻れない」
という覚悟が、同時に胸にあった。

警察署の中は、想像以上に静かだった。
無機質な空間で、私はこれまでのことを淡々と話した。
感情を込めると崩れてしまいそうで、
事実だけを、順番に並べるように。

これまでの証拠写真や、今実際にあるアザを見せて、対応してくれた警察官は、
私の話を遮らず、最後まで聞いてくれた。
そして、ふと、こんな言葉をかけてくれた。

「よく、ここまで来ましたね」
「これは、あなたが悪い話ではありません」

その一言で、
張り詰めていた何かが、静かにほどけた。
責められないこと。
否定されないこと。
それが、こんなにも心を救うものだとは知らなかった。

事情を聞き終えたあと、
警察官は私に問いかけた。

「ご主人を、逮捕してほしいですか?」

その瞬間、頭に浮かんだのは、
加害者としての夫ではなく、
子どもたちにとっての父親だった。

特に、五歳の長女。
父親の顔を思い浮かべ、
声を真似し、
無邪気に話す姿がよぎった。

この子から、
父親を逮捕された人として奪ってしまっていいのか。
私には、そこまでの決断はできなかった。

「そこまでは……望みません」

そう答えた自分を、
弱いと思った日もあった。
けれど今は、
あれはその時の私なりの、精一杯の選択だったと思っている。

警察は、
「今は別居をしてください」
「身の安全を最優先に」
そう、はっきり伝えてくれた。

その日を境に、
私と夫は別々に暮らすことになった。
話し合いではなく、
感情でもなく、
現実としての別居だった。

そこからは、
離婚に向けた準備が始まった。

住む場所のこと。
お金のこと。
子どもたちの生活リズム。
保育園の送迎、仕事、手続き。

一つひとつが重く、
不安が消えることはなかった。
それでも、
「殴られるかもしれない」
という恐怖の中で過ごす日々は、
もう終わっていた。

夜、子どもたちの寝顔を見ながら、
私は何度も自分に問いかけた。

これでよかったのか。
本当に守れているのか。

そのたびに、
警察官のあの言葉を思い出した。

「あなたが悪い話ではありません」

あの日、
私は助けを求めた。
そして初めて、
社会に、現実に、
手を差し伸べてもらえた。

それは、
シングルマザーになる決意よりも先に、
「母として、人として、生き直す」
第一歩だったのだと思う。

次の章では、
別居生活の始まりと、
子どもたちの変化、
そして私自身が感じた
静かな再生の兆しについて
つづっていきます。

今日もお読みいただきありがとうございました。

また次回も読みに来てくれたらうれしいです。

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