あぐり
努力が評価されない場所に、居続けるべきか ――火山旅・三爻が教える「去る前の心得」
一生懸命に働いてきた。
必要だと思われるスキルも学び、
礼儀も尽くし、できる限り誠実に振る舞ってきた。
それでも、職場では評価されない。
大きな失敗をしたわけでもなく、
怠けているつもりもない。
ただ、「見られていない」という感覚だけが、
日々、心をすり減らしていく。
「やはり、自分が評価される職場を探すべきなのだろうか」
そんな問いを抱えたとき、
易は 火山旅(かざんりょ)・三爻 を示しました。
この卦は、非常に厳しく、同時にとても誠実な卦です。
■ 火山旅という卦が示す前提
火山旅は、「旅人」の卦。
根を下ろす場所ではなく、
仮の宿に身を寄せている状態を表します。
旅人は、どれほど腕があっても、
どれほど真面目でも、
その土地では“よそ者”です。
評価されないのは、
能力が足りないからではない。
人格が劣っているからでもない。
「ここが、あなたの最終地点ではない」
それが、この卦の最初のメッセージです。
■ 九三爻の原文が語る、最も苦しい局面
九三爻の原文はこうあります。
旅焚其次、喪其童僕、貞厲
(旅の途中で宿を焼き、仕える者を失い、
正しくあろうとしても危うい)
これは、火山旅の中でも
最も心が折れやすい位置です。
・正しいことをしているつもりなのに
・なぜか状況が悪くなる
・居場所を失ったように感じる
・味方もいなくなった気がする
それでもなお、
「自分は間違っていないはずだ」と
歯を食いしばって立ち続けてしまう。
この爻は、
そんな頑張りすぎている人の姿を、
そのまま映し出しています。
■ 評価されない理由は「火が強すぎる」から
ここで誤解してはいけないのは、
この卦はあなたを責めていないということ。
火山旅・三爻は、
能力不足ではなく、
熱意や理想が強くなりすぎた状態を示します。
山の上にある火は、
遠くからはよく見える。
しかし、足元を温めることはできません。
あなたの誠実さや努力は、
今の職場では「高すぎる位置」にある。
だから、理解されない。
だから、評価の言葉が返ってこない。
それは、あなたが劣っているのではなく、
場との噛み合いが崩れているということなのです。
■ では、評価される職場を探すべきか?
易の答えは、単純な「YES」でも「NO」でもありません。
火山旅・三爻が示すのは、
「今すぐ燃やして去るな。
しかし、ここを終着点だと思うな」
という、非常に中庸な姿勢です。
・感情的に辞める
・すべてを否定して飛び出す
これは、三爻では「宿を焼く」行為となり、
後悔を生みやすい。
一方で、
・評価されないことに耐え続ける
・自分の価値を疑いながら居座る
これもまた、
あなたの火を内側から枯らしてしまいます。
■ この卦が勧める、現実的な行動
火山旅・三爻が教えているのは、
「旅人として、静かに次の宿を探せ」
ということ。
今の職場では、
・最低限の役割を誠実に果たす
・過剰な自己証明をやめる
・評価で自分を裁かない
その一方で、
・水面下で次の選択肢を探す
・自分が本当に力を発揮できる環境を見極める
・準備を整える
この二つを同時に行うことが、
最も安全で、最も尊厳を守る道です。
■ 心と身体を守るために
この爻が出るとき、
人は自分を責めすぎてしまいがちです。
「もっと頑張ればよかったのでは」
「自分の伝え方が悪いのでは」
けれど、易ははっきり言っています。
これ以上、火を強めるな。
今必要なのは、
頑張り続けることではなく、
自分を削らないこと。
■ 結び ― あなたは、旅の途中にいる
火山旅・三爻は、
人生の敗北を告げる卦ではありません。
これは、
**「ここで燃え尽きるな」
という警告であり、
「次の場所がある」
という約束です。
あなたは間違っていない。
ただ、今いる場所が仮宿なだけ。
評価されない場所に、
あなたの価値がないのではない。
あなたの価値を受け取る器が、
そこにないだけなのです。
もし今、
「このままでいいのだろうか」と
心が静かに問いかけているなら、
それは旅立ちの合図。
焦らず、誇りを手放さず、
次の道を整えていきましょう。
易はいつも、
あなたが壊れる前に、
静かに知らせてくれます。
その声に耳を澄ますことが、
次の人生を守る、
最初の一歩なのです。







