芽百マミム
第8章決断から始まる新しい暮らし
離婚を決めてから、
不思議なほど流れはスムーズだった。
長く迷い、悩み続けてきた時間が嘘のように、
「終わらせる」と決めた瞬間から、
人生は前に進み始めた。
決めたら、あとは進むだけ。
覚悟を決めた人間の選択は早い。
迷いがない分、余計な感情に足を取られなくなった。
引っ越しの家探しもそうだった。
条件は多くなかった。
子どもが安心して過ごせること。
静かで、安全で、
夜に怯えなくていい場所。
完璧な理想や、
余裕のある未来を描くより、
「今、生き直せる場所」を探していた。
そして、ちゃんと出会えた。
広くも、贅沢でもない。
けれど、
息をしてもいいと思える空間だった。
新しい家の鍵を受け取ったとき、
胸に広がったのは高揚感ではなく、
深い安堵。
やっとここまで来た。
それだけだった。
離婚は、逃げではない。
人生を投げ出したわけでもない。
それは、
自分と子どもを守るための決断だった。
ただ一つ、
どうしても譲れない条件があった。
子どもとは、会わせること。
夫婦としての関係は終わっても、
親である事実まで消すことはできない。
憎しみで断ち切る離婚にはしたくなかった。
感情が追いつかない日もあった。
許せない気持ちと、
守りたい思いが同時に存在していた。
それでも、
子どもの人生まで
大人の感情で切り分けることはできなかった。
会うことを認めるという選択は、
相手のためじゃない。
子どものためであり、
そして、
自分が後悔しないための選択だった。
離婚は、誰かを切り捨てる行為じゃない。
守るものを、はっきりさせる行為だ。
私は、
夫婦という形は手放した。
でも、
子どもの世界を壊さない道を選んだ。
こうして、
私たちの新しい生活が始まった。
華やかでも、簡単でもない。
それでも、
恐れよりも確かなものがあった。
それは、
「私は間違っていない」という感覚。
ここから先は、
誰かの期待ではなく、
自分で選び続ける人生。
この離婚は、終わりじゃない。
解放であり、
本当のスタートだった。
それは、
新しい試練の始まりであり、
同時に、
本当の意味での再生の始まりでした。
第9章へ続きます
次回もまた読みに来てくれたらうれしいです。
