唯真伊由
止まれなかった私に、 人生が教えてきたこと
第1章|第9話
止まれなかった私に、
人生が教えてきたこと
保険の仕事では、
最終的に
営業所長という立場を
任されるようになりました。
私の役割は、
営業社員たちの数字を管理し、
組織全体を整え、
新しい人材を迎え入れること。
リクルートは、
簡単な仕事ではありません。
それは、
誰かの人生の一部を、
引き受けるということだからです。
期待だけを語るわけにはいかない。
この仕事の現実も、
厳しさも、
正直に伝える必要がありました。
新人研修自体は、
専任のトレーナーが
担当していました。
けれど私は、
それとは別に、
人や組織を整える立場として、
研修の場をつくっていました。
この仕事に入った人が、
どこでつまずきやすいのか。
続けられなくなる理由は
どこにあるのか。
それを
数字だけでなく、
人として理解したかったのだと思います。
その場には、
新人だけでなく、
ベテランの営業社員たちも
参加してくれました。
「初心に帰れるから」
そう言って、
前向きに向き合ってくれたことを、
今でもよく覚えています。
立場や経験を越えて、
同じ空気を共有する時間は、
組織にとっても、
私自身にとっても、
大切なものでした。
一方で、
日々の忙しさは
増すばかりでした。
数字の管理。
リクルート。
人の調整。
移動。
毎日、
長い距離を車で往復しながら、
頭も体も
休まる暇はありませんでした。
そんな中で、
父が病に倒れます。
入院し、
退院し、
そして、
わずか二週間後の別れ。
心が追いつく前に、
現実だけが
先に進んでいきました。
仕事を抱えたまま、
喪失を抱えたまま、
私は
踏ん張り続けていました。
心身ともに
限界に近づいていた頃。
思いがけず、
一つの話が
私のもとに届きます。
結婚相談所の
カウンセラーの仕事。
収入は、
大きく下がると
聞いていました。
それでも、
なぜか
心が動いてしまったのです。
人の人生の、
最も幸せな瞬間に
寄り添う仕事。
選択の先にある未来を、
支える仕事。
それは、
これまで私が
無意識に引き受けてきた役割と、
静かに
重なっていました。
父の葬儀を終えたあと、
私は、
立ち止まって
考えました。
これから、
何を大切にして
生きていきたいのか。
まだ、
答えは
はっきりしていませんでした。
けれど、
確かに
一つの扉が、
開き始めていたのです。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました☆彡
日々の気づきや、
ふと心に浮かんだことは、
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