唯真伊由
選び直すと、決めたわけではなかった【第1章|最終話】
第1章|最終話
選び直すと、
決めたわけではなかった
父の葬儀が終わって、
日常は、何事もなかったように
また動き始めました。
仕事は待ってくれません。
役割も、責任も、
そこにあり続けます。
けれど、
私の中では
何かが
はっきりと変わっていました。
泣き崩れるほどの悲しみでもなく、
人生を考え直そうという
大きな決意でもない。
ただ、
これまで当たり前に背負ってきたものが、
少し重く感じられるようになっていたのです。
無理をしている、という感覚。
頑張りすぎている、という自覚。
それさえも、
以前の私は
見ないようにしてきました。
けれど、
もう同じようには
戻れませんでした。
そんな時に、
あの話が、
もう一度
静かに浮かび上がってきます。
結婚相談所の
カウンセラーという仕事。
収入は大きく下がる。
安定しているとは言えない。
それでも、
不思議と
怖さより先に、
納得感がありました。
人の人生の節目に立ち会うこと。
選択の先にある未来を、
一緒に考えること。
それは、
これまで私が
仕事の中で
無意識に続けてきた役割と、
重なっていました。
私は、
「よし、変わろう」
と決めたわけではありません。
「挑戦しよう」
と気合を入れたわけでもない。
ただ、
葬儀が終わって間もなく、
私は転職していました。
気づけば、
次の場所に立っていたのです。
それは逃げでも、
諦めでもなく。
かといって、
前向きな決断だと
言い切れるものでもありませんでした。
ただ一つ言えるのは、
これ以上、
自分の感覚を
置き去りにできなかった
ということ。
「ちゃんとしている私」だけで
生きることに、
限界が来ていたのだと思います。
この選択が、
正しかったのかどうか。
その答えは、
まだ分かりませんでした。
けれど、
確かに私は、
人生を
少しだけ
選び直し始めていました。
その先で、
また迷い、
立ち止まり、
問い続けることになるとも知らずに。
最後までお読みいただきまして、ありがとうございました☆彡
日々の気づきや、
ふと心に浮かんだことは、
Xでも綴っています。







