あぐり
仕事の邪魔をしてくる上司に、疲れてしまったあなたへ ――関係を選び直すという決断
成熟とは、関係を終わらせる力
――地沢萃 三爻が示す「静かな選別」
人間関係において、ある瞬間から、説明することに疲れてしまうことがあります。
言葉を尽くしても、こちらの都合や時間、感覚が尊重されない。
関係は続いているのに、心はすでにそこに集っていない――
そんな違和感が、静かに積もっていくことがあります。
今回のご相談は、所用で席を外そうとすると、上司がしきりに自分の仕事の要求を重ねてくる、というものでした。
それは表面的には「業務上の正当な要請」に見えます。
しかし、その実態は、あなたの時間や境界を当然のものとして侵食してくる関係性です。
易に問うと、得られた卦は地沢萃(ちたくすい)三爻。
地沢萃は「集まる」「人が寄り合う」ことを象徴する卦です。
本来は協力や結束を意味しますが、三爻という位置は、集団の内部にいながら、すでに心がそこから離れ始めている段階を示します。
爻辞には、
「萃如、嗟如。無攸利。往く攸あれば、咎なし」
とあります。
ここで語られる「嘆き」とは、感情的な悲嘆ではありません。
無理に適応しようとする中で生じる、内側の静かな違和感です。
集まり続けること自体に、もはや意味や実りが感じられなくなっている状態なのです。
この爻は、はっきりと告げています。
関係が続いているかどうかは、重要ではない。
重要なのは、その関係の中で、あなたが尊重されているかどうかだ、と。
人はよく、人間関係を切ることを「冷たい」「逃げだ」と捉えます。
けれど、地沢萃三爻の視点では、それは破壊ではありません。
選別です。
成熟した人が距離を取るとき、それは衝動ではありません。
内側ではすでに、何度も検討され、確かめ尽くされた結論なのです。
関係を終えたあとに訪れる孤独は、自己否定へ向かうものではありません。
孤独とは状態であり、準備期間です。
どんな距離が心地よいのか。
頻繁に会わなくても、無理に言葉を交わさなくても続く関係とは何か。
それを測るためには、孤独しかないのです。
孤独を経験した人ほど、線引きは明確になります。
説明は減り、選択は静かになる。
誰かを説得しようとしなくなり、自分の感覚を裏切らなくなる。
この卦が示すのは、闘うことでも、相手を変えることでもありません。
勧めているのは、距離の再配置です。
即座に応じない。
すべてを引き受けない。
自分の時間を差し出す前提を、そっと崩す。
それは冷淡さではなく、成熟です。
人間関係の質は、「どれだけ耐えたか」「どれだけ説明したか」で測られるものではありません。
自分の感覚を裏切らずにいられたかどうかで決まるのです。
関係を終わらせたとき、人は何かを壊したように感じるかもしれません。
けれど実際には、何かを守ったのです。
――自分自身を。
地沢萃三爻は、その選択に「咎なし」と静かに告げています。
集まらない時期があっていい。
孤独は、人を遠ざけるためにあるのではない。
次に選ぶ関係を、誤らないためにある。
成熟とは、騒がず、語らず、しかし確かに、自分の位置を選び直す力なのです。







