あなたでなくてもいい場所
私はどちらかといえば、
同調の中で呼吸するより、
個として立つほうが楽な人間です。
昔から、やりたいことを
やりたいようにやる感覚を、
どこか手放せませんでした。
大きな組織で
働いていたことがあります。
仕事は途切れず、役割もありました。
評価も、おそらく悪くはなかった。
それでもあるとき、
とても当たり前のことに気づきました。
この場所は、
誰が抜けても回るようにできている。
属人化しない。
再現できる。
安定する。
組織としては理想的です。
ただ同時に、
個は静かに薄くなっていく。
どれだけ工夫しても。
どれだけ積み上げても。
あなたでなくてもいい。
言葉にすると少し冷たく聞こえますが、
責めたいわけではありません。
むしろ社会を支える、
とても合理的な設計です。
ただ、その環境が合う人と、
呼吸が浅くなる人がいる。
それだけのことなのだと思います。
私は、おそらく後者でした。
思い返すと、
同調そのものが嫌だった
わけではありません。
自分が見えなくなる感覚が、
静かに堪えていたのです。
給料でも待遇でもない。
交換可能である、という感触。
人が削れていくのは、
案外こういう場所なのかもしれません。
とはいえ、
人は一人では生きられません。
集団の力に守られている場面も、
確かにあります。
コロナ禍の頃、
それをはっきり見ました。
誰かに強く命じられたわけでもないのに、
多くの人が似た行動を取っていた。
手を洗う。
マスクをする。
距離を取る。
静かに足並みがそろっていく。
あれは恐怖だったのか。
思いやりだったのか。
いまでも、はっきりとは分かりません。
ただ、その両方だった
ように感じています。
同じ性質が、あるときは人を守り、
あるときは息苦しさにもなる。
光と影のように。
自由でいたい。
でも群れから外れるのは怖い。
個で立ちたい。
でも孤独は避けたい。
どちらかだけでは、
生きていけないのでしょう。
私は最終的に、
個として立つ側へ移りました。
反抗したかったわけではありません。
ただ、自分の輪郭に合う場所へ
静かに移動しただけです。
魚が水に戻るような、
それに近い感覚でした。
以前、人生には回収されるような出来事がある、
と書いたことがあります。
人はときどき、
自分の輪郭へ戻っていく。
遠回りに見えても、
あとから振り返ると一本の線になる。
組織の中で感じていた違和感も、
いま思えば必要な時間でした。
あの感覚がなければ、
どこで呼吸しやすいのか分からなかった。
好きなことに特化したほうが楽だ、
という考え方もあります。
たしかに軽やかです。
でも振り返ると、
私の役割になっていったものは、
最初から好きだったわけではありません。
むしろ少し苦手でした。
避けたかったもの。
できれば距離を取りたかったもの。
それでもなぜか、
何度も同じ場所に立つことになる。
遠回りしているつもりなのに、
気づけば戻っている。
不思議なものです。
得意だから選ぶ、というより、
手放そうとしても離れきれない。
そんな領域が、
人には一つや二つあるのかもしれません。
むいているかどうかは、
あとから静かに名前がつくだけで。
あの違和感も、
居心地の悪さも、
手放せない場所へ戻っていくための、
小さな目印だったのかもしれません。
むしろ最近は、
あの感覚がなければ、
私はまだ別の場所で立ち止まっていたのではないか、
と思うことがあります。
違和感とは、
排除するものではなく、
感度の高いセンサーのようなものなのでしょう。
体が熱を出すとき、
それは単なる不調ではなく、
体がこれ以上無理をさせないための反応
でもあります。
止まるべきところで止まらせる。
方向を修正させる。
体は、ときどき驚くほど正確です。
違和感も、それに少し似ています。
見ないふりをして進むこともできます。
ただ、その選択はどこかで無理を生む。
逆に、
その小さなズレに気づけたとき、
人生の調整は
とても静かに始まります。
大きく変わるわけではありません。
ただ、判断が少しずつ正確になっていく。
無理な場所に長くとどまらなくなる。
余計な遠回りが減っていく。
幸運とは、
何かを手に入れることだけ
ではないのかもしれません。
自分の感覚を誤魔化さなくなること。
それだけで、
人はずいぶん歩きやすくなる。
最近は、そんなふうに考えています。
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