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あぐり

「山の如く立ち止まる時 ― 評価されない職場で迷う心に」

「自分が今の職場で評価されていないと感じています。声の大きい人、裏工作をする人ばかりが優遇されているように思います。退職するかどうか迷っています。」

 易を立てたところ、艮為山 四爻 。

易経という書物は、不思議なことに、現実の出来事をただ占うだけでなく、心の動きと状況の構造を静かに映し出します。

艮為山(ごんいざん)は、その名の通り「山」。
動きを止め、立ち止まり、内面を整える卦です。

まず、この卦の根本の意味から見てみましょう。

山は動きません。

しかし、ただ動かないのではなく、動くべきでない時に動かないという知恵を象徴します。

易はここで、人間にこう問いかけています。
「いま、動くべき時か。それとも止まるべき時か」。

そして四爻。

ここは卦の中でも微妙な位置にあります。
下の三爻は自分の内面、上の三爻は社会や外界。
四爻はちょうどその境目に立つ場所です。

爻辞はこう言います。

「艮其身。无咎。」
(その身を止む。咎なし。)

つまり、
自分自身を静かに止めよ。そうすれば過ちはない。

ここで大事なのは、「相手を止める」とは言っていないことです。
止めるのは自分の心の動きです。

声の大きい人。
裏工作をする人。

そういう人を見ると、人の心はどうしても揺れます。
怒り、悔しさ、失望。

しかし易は言います。

「いま戦う時ではない。」

山の卦は、戦いを否定するわけではありません。
ただし、戦う価値のない場所で心を消耗するなと教えるのです。

四爻の位置は、組織の中堅の場所を象徴することが多い。
つまり、上の権力構造も見え、下の現場も見える。
だからこそ、矛盾がよく見えてしまう。

これは多くの誠実な人が経験する位置です。

ここで無理に動くとどうなるか。
山の卦では、これを「止めるべき時に動く」と呼びます。
すると心が乱れ、判断が狂います。

だから易は、まずこう言っています。

「心を止めよ。」

これは我慢とは違います。
むしろ、状況を冷静に観察するための停止です。

山に登ったことのある人は知っています。

山頂では風が止まり、空気が静かになります。

その静けさの中ではじめて、
遠くの景色が見える。

艮為山四爻は、まさにその状態です。

つまりこの卦が語っているのは、

「いまは結論を急ぐな」

ということです。

退職すべきか。
残るべきか。

それを今、感情で決めると、あとで悔いる可能性がある。
まずは、心を山のように静めること

そしてもう一つ重要なことがあります。

艮の卦は、止まることで次の道が見える卦でもあります。

山は動きません。
しかし山道は、山を越えることで開けます。

今の職場が人生の終着点ではありません。
人の道は、山脈のように続いています。

だからこの卦は、静かにこう言っています。

「今はまだ決断の時ではない。
しかし、目を閉じているわけでもない。」

評価されない場所に長く居続ける必要はありません。

ただし、去るならば、怒りではなく、明晰な判断で去ること

易経の言葉を少し現代風に言えば、

「静かな心で、自分の立つ場所を見極めよ」

ということです。

そして、ひとつだけ確かなことがあります。

声の大きさや裏工作で作られた評価は、
山の霧のようなものです。

風が吹けば、消える。

しかし、静かに積み上げた力は、
山そのもののように残ります。

人生は長い山脈です。
ひとつの職場は、その尾根の一つにすぎません。

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