あぐり
不安定な上司の理不尽な叱責をどうかわすか ― 未済の人との距離の取り方
いつも叱責するか、何か起こるとパニックに陥って人を責めるしかない上司に対してどう対応すればいいでしょうか、その人のそばに行くだけで不安感に襲われますがどうしたらいいでしょうか?というご相談。
人は、ときに理不尽な叱責や、制御しきれない感情の波にさらされる環境の中に置かれます。今回のご相談にあるように、「何か起こるとパニックに陥り、人を責めることでしか均衡を保てない上司」と向き合うとき、心は知らず知らずのうちに緊張し、やがてその場に立つだけで不安に襲われるようになるのも無理はありません。しかし、その苦しさの中にも、ひとつの理解の光があります。
易において示された火水未済三爻は、まさに「未だ成らず」の象徴です。水の上に火があるこの卦は、本来交わるべきものが交わらず、落ち着くべきところに落ち着いていない、不安定で未完成な状態を表しています。そこには、整いきらぬ関係性、成熟しきらぬ心の動き、そしてどこか宙に浮いたままの人間関係の構図が映し出されています。
三爻という位置は、物事が進みかけながらも、まだ地に足がついていない段階です。焦りが生じやすく、無理に前へ進もうとすればするほど、かえって足元をすくわれやすい。ここで無理を重ねると、関係はさらに乱れ、状況は悪化していきます。この卦が語っているのは、「今は整っていないものを、無理に整えようとするな」という静かな戒めです。
この上司の在り方を卦に照らして見るならば、その人は内的な安定を欠いたまま、責任や立場だけを担っている状態にあると言えるでしょう。
自分の中で処理しきれない不安や混乱を、外に向けて放出することでしか保てない均衡。その結果として現れるのが、叱責や責任転嫁という形なのです。
つまり、その攻撃はあなた個人への評価というよりも、「自分自身を保つための反応」に近いものなのです。
では、そのような状況の中で、どのように在るべきか。火水未済三爻が教えてくれるのは、「距離の取り方を誤るな」という一点に尽きます。
まず大切なのは、心理的な距離を保つことです。相手の感情の波に巻き込まれず、一歩引いたところから状況を見る。叱責を真正面から受け止めてしまうと、それは心の奥に深く刺さります。しかし、「この人はいま未済の状態にある」と理解することで、その言葉のすべてを自分に向けられたものとして受け取らずに済むようになります。
次に、人格ではなく役割として対応すること。叱られたとき、「自分が否定された」と感じるのではなく、「業務上のやり取りの一部」として処理する意識を持つことです。感情で応じるのではなく、構造で応じる。事実を整理し、冷静に対応することで、相手の混乱に巻き込まれにくくなります。
また、このような上司に対しては、先回りした報告や情報整理が有効です。不確定要素が多いほど相手は不安になり、それが攻撃として現れやすくなるため、あらかじめ状況を整えて提示することで、衝突を和らげることができます。
そして何より重要なのは、「救おうとしないこと」です。この人を理解しよう、支えよう、変えようとするほど、あなたのエネルギーは消耗していきます。未済とは、自ら渡らなければならない川を前にしている状態です。他者が代わりに渡ることはできません。あなたがその役目を背負う必要はないのです。
そばにいるだけで不安になるという感覚は、決して弱さではありません。それはむしろ、危険を察知する健全な感受性の働きです。その感覚を否定するのではなく、大切な指針として受け止めてください。
未済は「まだ終わっていない」ことを意味します。混乱もまた過程のひとつであり、そこから学び取るべきものがあるということです。この経験は、あなたに「距離の知恵」と「巻き込まれない強さ」を静かに育てていくでしょう。
揺らぎの中に立ち続ける必要はありません。
火は水の上で揺れている――その不安定さに、無理に秩序を求める必要はないのです。






