〈阿佐霧峰麿〉“すぐ上手くなる人”の正体 ── 才能ではなく、失敗の速度だった
私は幼い頃から約12年間、
「器械体操」を続けていました。
「器械体操」というと、
男子は、床・あん馬・跳馬
・つり輪・平行棒・鉄棒の6種目。
それぞれがまったく違う
身体操作を要求し、
ひとつのミスも許されない世界です。
例えば「種目別」の争いとは、
その種目のスペシャリスト同士の戦い。
でも「個人総合」となると、
6種目全部を美しく、
完璧に演じきった人だけが
頂点に立てる。
内村航平(うちむらこうへい)選手が
どれほど“異次元”の選手だったかは、
この構造を知るとよく分かるはずです。
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「伸身の新月面」は、いきなりできない
鉄棒の有名な降り技のひとつに
「伸身の新月面」があります。
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※(通称:しんしんのしんげつめん)
「伸身の新月面が描く放物線は栄光への架け橋だ」は、
2004年アテネ五輪の体操男子団体決勝で、日本の金メダル獲得が決まった瞬間の名台詞。
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身体を伸ばしたまま、
後方2回宙返りに
2回ひねりを入れて着地する──
聞くだけで目が回るような技です。
でも想像してみてください。
初めて挑戦する時、
どう練習すると思いますか?
もちろん、いきなり鉄棒から
やるなんて無茶はできません。
頭から落ちて命に関わる大怪我を
する可能性があります。
まずは後方2回宙返りだけを、
自分がどういったコンディションでもできる
状態からがスタートです。
そしたら、2回宙返りの中で
まずは“半分”のひねりを入れる。
それができたら、半分に
もう半分を加えて1回ひねり。
少しずつ少しずつ段階を踏んで、
2回ひねりへと近づけていくんです。
これは鉄棒でいきなりではなく、
トランポリンで体の感覚を作る選手も多い。
空中で自分が今どこにいて、
どの角度にいて、どこへ落ちていくのか──
その“空中感覚”を、子どもの頃から身につけている人は
新技への対応力が段違いです。
内村航平選手も幼い頃からトランポリンを使い、
空中感覚を養ったと言われています。
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成功とは、失敗を高速で繰り返し、修正し続けた先にある
器械体操では、自分がやりたい技があった時、
まず上手い選手がどうやっているかを徹底的に研究します。
そして、自分の中で技のイメージと、
それを成功させている自分をイメージします。
その後、実際にやってみて、動画で撮影し、
映像と自分の感覚を照らし合わせ、
ズレをひとつずつ修正していく選手が多いと思います。
この「感覚 × 映像のすり合わせ」を、
積み重ねていくのが基本スタイル。
“着地”に関しても同じ過程を踏みます。
本番で偶然“着地がピタリと決まる”ことは稀にあります。
ですが──そんな偶然に頼っている選手は、
トップ層には一人もいないことでしょう。
着地が止まる確率、空中での軌道、
回転速度、視界の流れ、
そして“成功しやすい時の身体の状態”。
トップ選手はそれらを徹底的に分析し、
その感覚を身体にインストールするところまで
やり切ります。
完璧に見える着地は、
“偶然の成功”ではなく、
積み重ねた失敗と修正の先にある必然です。
つまり成功とは、
失敗を高速で繰り返し、
修正し続けた先にしか存在しません。
そして、ひとつの技が完成した経験は、
必ず次の技の土台になる。
時には新しい技のヒントにさえなる。
器械体操の世界では、
失敗を恐れていては何一つ身につかないのです。
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プロが“既にできる技”を毎日磨き続ける理由
器械体操では、技そのものや美しさもそうですが、
「着地」の完成度で大きく差が出ます。
一歩の足の出方で減点が変わるんです。
だからプロ選手は、
すでにできる技で、自分のコンディションをはかったり、
着地の精度を高めるべく、何度も繰り返して磨き続けていきます。
空中で回っている最中も、
自分が空間のどこにいて、
どの角度で、どの高さで落ちていくのか──
すべてを俯瞰し続ける必要がある。
この“俯瞰”を6種目で
常にやっているわけです。
器械体操がいかに究極の身体芸術か、
少し伝わったでしょうか。
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だから私は、失敗を恐れない
12年間の器械体操で学んだのは、
成功とは“積み上げられた時間”
そのものだということでした。
「失敗は成功の母」という言葉がありますが、
私にとっては
“失敗の数がそのまま成功の厚みになる”
という体感のほうが近いです。
どんな完璧な演技にも、
どれだけ美しい軌道にも、
必ず無数の失敗の層が積み重なっています。
「すぐ上手くなる人」は
生まれつき才能があるのではなく、
“人の何倍もの速度で失敗し、修正する人”
だと私は思います。
だから私は、今でも失敗を恐れていません。
むしろ、どんどん失敗したいとさえ思っています。
失敗の数だけ、次の技の土台ができる
と知っているからです。
あなたが今、何かに挑戦している途中で
つまずいているなら──
その失敗は、未来のあなたにとって
間違いなく“新技の一歩目”です。
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言葉でも、声でも、対面でも──
その日のあなたに合う距離で。
そっと寄り添える場所として、
ここにいます。
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