あぐり
誠実な人ほど去っていく職場にとどまるべきでしょうか?
「人をご都合主義で使い回す、素直に従う人が疲弊し職場を去っていく、媚びへつらう人だけが残り、職場の人間関係は荒れ放題、仕事場も不要なものが処分されず放置されたままなのに不思議な肖像を祀っていたりする。早く退職したいと考えていますが、どうしたらいいですか?」というご相談。
易を立てたところ、沢雷随 初爻。
沢雷随(たくらいずい)は、「従う」「流れに随う」という卦です。
しかし、この卦の核心は単なる追従ではありません。
何に従うのか。
誰に従うのか。
どの流れを選ぶのか。
それを見極めよ、という問いを含んだ卦です。
そして初爻。
これは卦のいちばん下、物事の始まりの位置にあります。
易の言葉はこう記します。
「官有り。貞なれば吉。
門を出でて交われば功あり。」
少し噛み砕いてみましょう。
ここでいう「官」とは、上司や組織の役割、あるいは社会の秩序を意味します。
つまり、
組織の中にいる限り、一定の役割に従うこと自体は悪いことではない。
しかし初爻は同時にこう続けます。
「門を出でて交われば功あり」
これは象徴的な言葉です。
「門」とは、
今いる世界、今いる組織、今の閉じた人間関係。
そこから一歩外へ出て、
別の世界とつながるならば、道が開ける。
つまりこの爻が示しているのは、
閉じた環境に従い続けるな。
外の世界とつながれ。
ということです。
この職場の様子は、非常に典型的な「腐敗した組織」の姿です。
・人を都合よく使い回す
・誠実な人ほど疲弊して去る
・媚びる人だけが残る
・環境が荒れ、物も整理されない
・意味不明の象徴(肖像など)だけが祀られる
こういう場所では、
組織の本来の「気」がすでに乱れています。
東洋思想では、
空間の乱れは人心の乱れを映す
と考えます。
物が放置されている職場というのは、
多くの場合、
・責任の所在が曖昧
・判断力が弱い
・精神的秩序が崩れている
という状態を表しています。
そこに長くいると、
人は無意識に気力を吸われます。
沢雷随の初爻は、
こういう時に非常に明確な指針を出します。
いきなり反抗するな。
しかし、その世界だけに従うな。
です。
つまり
・今の役割は最低限果たす
・内部の争いには深入りしない
・外の世界との縁を作る
この三つです。
転職の準備、
人脈、
新しい学び、
副業、
資格。
何でもいい。
門の外へ出る準備をする。
これがこの爻の核心です。
ここで大事なことを一つ言います。
易は「辞めろ」とは言っていません。
易が言っているのは
「出口を作れ」
です。
出口ができた時、
人は驚くほど冷静になります。
そして面白いことに、
出口ができた瞬間に、
・職場の態度が変わる
・評価が変わる
・状況が動く
ということもよく起きます。
なぜか。
人は逃げ道を持った瞬間に、
心の主導権を取り戻すからです。
沢雷随という卦は、
実は「人気運」を表す卦でもあります。
本来は、人が自然と集まり、
流れが生まれる卦。
つまり、
今の場所がその状態でないならば、
そこはあなたの流れではない可能性が高いのです。
川が違うのです。
魚が川を変えることはできません。
しかし
泳ぐ川は選べる。
初爻はまさに
「川を変える準備を始めよ」
という位置です。
焦って飛び出す必要はありません。
しかし、
外の世界に手を伸ばす。
それがこの爻のもっとも静かで、
もっとも強いメッセージです。
そして少しだけ、易の面白い話を。
沢雷随は
「雷が沼の下にある」卦です。
雷は本来、空を走るもの。
しかし今は沼の下に潜っている。
つまりこれは、
まだ表に出ていない力
を意味します。
沼の水が動けば、
雷は一気に鳴ります。
人の運命も同じです。
環境を一歩変えるだけで、
突然、人生の音が鳴り始める。
沢雷随の初爻は、
その最初の一歩の場所なのです。







