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何度言っても伝わらない同僚にどう向き合うか ― 沢天夬 初爻が教える「正しさを急がない」智慧

何度話しても、こちらの言葉が届かない人がいます。

体調が悪いなら休んだ方がいい。
頭痛がするなら、無理をせず帰った方がいい。
周囲に気を遣わせながら仕事をするくらいなら、きちんと休んで回復した方が、本人にとっても職場にとってもよい。

そう伝えているのに、相手は「頭が痛い」「体調が悪い」と言いながら、また仕事に来てしまう。

しかも、本人は自分が周囲に迷惑をかけていることに気づいていないように見える。
こちらは心配もしている。
けれど同時に、苛立ちも湧いてくる。
「どうしてわからないのだろう」
「何度言えば伝わるのだろう」
「結局、周りが振り回されているではないか」

そんなご相談に対して易を立てたところ、出た卦は、沢天夬(たくてんかい)初爻でした。

「夬」は、決する、決断する、切り分けるという意味を持つ卦です。
曖昧にしてきたものを、そのままにはしておけない。
言うべきことを言う。
正すべきことを正す。
そうした強い意志が立ち上がってくる卦です。

けれど、この卦は単に「強く言いなさい」と教えているわけではありません。

むしろ初爻は、こう戒めています。

勢いだけで踏み出してはいけない。
正しさにも、順番がある。

沢天夬の初爻には、
「前趾に壮んなり。往きて勝たず、咎と為す」
という言葉があります。

足の先だけが勢いづいている。
まだ全身の力が整っていないのに、先走って進めば勝てず、かえって問題を生む。
そのような意味です。

今回の相談に重ねるなら、相談者の方の言っていることは決して間違っていません。
体調が悪いときは休む。
無理をして出勤することで周囲の仕事に影響が出るなら、それは職場全体の問題として考える必要があります。

ただし、ここで感情に任せて、

「迷惑だから休んでください」
「何度言えばわかるんですか」
「周りのことを考えてください」

と強く言ってしまうと、問題の本質がずれてしまう可能性があります。

相手は、もしかすると本当に自分の行動が周囲に与えている影響を理解できていないのかもしれません。
あるいは、休むことに強い罪悪感を持っているのかもしれません。
「自分が休むと迷惑をかける」
「体調不良くらいで休んではいけない」
「頑張って出勤することが責任感だ」
そう思い込んでいる可能性もあります。

つまり、その人の中では、
「休むことが迷惑」
であり、周囲から見ると、
「無理に来ることが迷惑」
になっている。

ここに、認識の大きなずれがあるのです。

沢天夬初爻は、このずれに対して、正面から怒りをぶつけるのではなく、まず一歩立ち止まることを教えています。

大切なのは、相手を責めることではありません。
また、相談者ひとりが説得し続けることでもありません。

この卦が示しているのは、個人対個人の問題として抱え込まず、職場の仕組みとして扱うことです。

何度伝えても変わらないなら、同じ言葉を重ねるだけでは限界があります。
その場合は、上司や責任者に相談し、体調不良時の出勤について、職場全体のルールや判断基準を明確にする必要があります。

その際にも、言い方が大切です。

「あの人が迷惑です」
「あの人がわかってくれません」

という伝え方ではなく、

「体調不良を訴えながら出勤しているため、本人の体調も心配ですし、周囲も対応に迷っています」
「感染症などの可能性も含めて、体調不良時の出勤判断を職場として整理した方がよいのではないでしょうか」
「本人を責めたいのではなく、職場全体の健康管理と業務運営の問題として相談したいです」

このように、個人攻撃ではなく、事実と仕組みの問題として伝えることです。

沢天夬は「切り分ける」卦です。
感情と事実を切り分ける。
心配と苛立ちを切り分ける。
本人の問題と職場のルールの問題を切り分ける。

この切り分けができたとき、相談者の言葉は単なる不満ではなく、場を整えるための提案になります。

また、本人に直接伝える場合も、言葉を少し変える必要があります。

「休んだ方がいいよ」と言っても伝わらないなら、
「無理して来てくれる気持ちはわかるけれど、今は休むことも仕事の一部だと思う」
と伝えてみる。

「周囲に迷惑だよ」と言う代わりに、
「体調が悪いときに出勤するかどうかは、個人判断だけではなく、職場全体で決めた方がいいと思う」
と、仕組みに戻す。

「あなたが悪い」と言うのではなく、
「こちらも心配になるし、仕事の調整も必要になるから、早めに上司に相談してほしい」
と、具体的な行動へつなげる。

相手の性格を変えようとすると、苦しくなります。
けれど、場のルールを整えることはできます。
相手の内面を無理に動かそうとするのではなく、職場としてどう対応するかを明確にする。
それが、沢天夬初爻の示す現実的な智慧です。

この卦の核心は、
正しいことを言うときほど、勢いで進まないこと
にあります。

正しさは、刃物のようなものです。
使い方を誤れば、相手を傷つけ、自分も傷つきます。
けれど、静かに用いれば、絡まったものをほどき、曖昧になっていた境界線を整える力になります。

今回の相談者に必要なのは、怒りを飲み込んで我慢し続けることではありません。
かといって、感情のまま相手を責めることでもありません。

必要なのは、静かな決断です。

「この問題は、私ひとりが説得し続けるものではない」
「本人を責めるのではなく、職場の健康管理として扱おう」
「曖昧なまま放置せず、上司や責任者に相談しよう」

そう決めることです。

沢天夬初爻は、足先だけが先走ることを戒めます。
つまり、今はまだ、勢いよく切り込む時ではありません。
まずは事実を整理し、感情を鎮め、しかるべき人に相談する。
そのうえで、職場全体のルールとして整えていく。

それが、相手のためにも、周囲のためにも、そして相談者自身の心を守るためにも、最もよい道です。

人は、正論だけでは変わりません。
けれど、場の空気が変わり、仕組みが整い、判断の基準が明確になったとき、行動は少しずつ変わっていきます。

沢天夬初爻は、こう語りかけています。

怒りで斬るのではなく、智慧で境界線を引きなさい。
相手を裁くのではなく、場を整えなさい。
正しさを急がず、正しさが届く形を選びなさい。

その静かな一線こそが、今の状況を動かす最初の一歩になるのです。

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