曽我部 キキョウ
「むかしむかし」は終わらない ~人は今も物語で世界を見る
むかしむかし、
おじいさんとおばあさんが
村の外れに住んでいました。
こう始まると、日本の昔話だ!と
誰でも分かるのではないでしょうか。
ところで、昔話は一体どの程度昔の話か、
考えたことはありますか。
実は昔話の大半は、
いつ頃、どう成立したのかはっきりしません。
「昔」は文字が使える人や
記録が限られていました。
だから、本当にあった話か、
誰が語り始めたのか、分かりません。
逆に言うと、分からないからこそ
「昔話」として物語化され
今に至るのでしょう。
ところで、江戸時代も後半や、
明治時代の話だと、今からすると
十分昔のことです。
けれども、誰もこの時期の話を
「むかしむかし、明治時代に」とは言いません。
あるいは、有名な「トイレの花子さん」は、
いつどこで成立した話なのか、
誰が言いだしたかは分かりません。
ところが、1980年代に流行した、という
「歴史」を調べることができます。
写真や映像をはじめ、
ネットの記事やSNSまで、
現代は何かしら記録が残っています。
つまり、いつどこで広まったのかを
調べることができるのです。
ですから、「むかしむかし、あるところに」で
始まるような形の、新しい物語は
生まれにくいのかもしれません。
かつて人々が物語に託したのは
記録のない、空白部分についてです。
現代は逆に、情報が多すぎます。
つまり、一つのできごとに対して、
膨大な情報があっても、
全てに目を通し、理解することはできません。
ですから、一部の情報だけを採用し、
脳が「この人はこういう人だ」とか、
「この事件は、こういうこと」と
納得できる形を作り上げるのです。
さて、「むかしむかし」に代わる、
あなたの頭の中にある物語。
昔は記録の空白を埋めるために語られました。
今は情報の洪水を整理するために
生まれています。
時代は変わっても、
人が物語を必要とする理由だけは、
あまり変わっていないのかもしれません。
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