あぐり
感謝を口にしても、不満が消えない人――ペンタクルのキング逆位置が教える「もう背負わなくていい関係」
「上司の対応がなっていない」
「同じ職場の人も礼儀がなっていない」
「ちゃんとした人ほど、すぐ辞めてしまう」
そんなことを、いつも口にしている同僚がいます。
もちろん、職場ですから不満のひとつやふたつは誰にでもあるでしょう。
理不尽な上司もいるかもしれません。
人間関係に疲れることもある。
待遇や環境に納得できないことだってあります。
けれど、その同僚の話をずっと聞いているうちに、ある違和感が生まれてきたそうです。
確かに不満は口にする。
しかし一方では、その職場からさまざまな恩恵も受けている。
周囲に助けてもらっていることもある。
働ける場所があり、毎月給与が支払われ、ある程度守られている部分もある。
それなのに、そうしたものにはほとんど目が向かない。
口では、
「ありがたいとは思っている」
と言うのですが、その人の心の底には、いつも、
「足りない」
「私はもっと大切にされるべきだ」
「周囲の人間がおかしい」
という不満が流れているように感じるのです。
そこで、
「それほど今の職場が嫌なら、自分が本当にやりたいことに向かって進んだほうがいいのでは?」
と、これまで何度か話してきました。
ところが、一向に状況は変わりません。
辞めるわけでもない。
新しいことを始めるわけでもない。
ただ同じ場所に留まりながら、同じ不満を繰り返している。
「もう、この人とは距離を置いたほうがいいのでしょうか」
そんなご相談でした。
タロットカードを一枚引いてみると、
ペンタクルのキング・逆位置。
とても象徴的なカードです。
「持っていない」のではなく、「持っているものが見えない」
正位置のペンタクルのキングは、現実的な豊かさを象徴する人物です。
仕事。
お金。
生活。
人脈。
信用。
積み上げてきた経験。
そうした現実世界の財産をきちんと認識し、守り、育てていく力を持っています。
自分が何を持っているのかを知っているからこそ、落ち着いている。
周囲にも豊かさを分け与えることができます。
しかし、逆位置になると少し様子が変わります。
自分がすでに持っているものが見えなくなる。
そして、
「まだ足りない」
という感覚ばかりが強くなっていくのです。
誰かに助けてもらっても、
「でも、あの人の態度は悪かった」
となる。
会社に守られている部分があっても、
「でも、待遇が悪い」
となる。
周囲から配慮を受けていても、
「もっと配慮されるべきだ」
となる。
感謝の言葉そのものは口にできるでしょう。
けれど心のデフォルト設定が、
「私は十分に与えられていない」
になってしまっている。
だから、どれほど現実が改善されても満足できません。
問題は職場ではなく「世界を見るレンズ」にある
職場に対して不満を持つこと自体が悪いわけではありません。
むしろ本当に問題があるなら、改善を求めることは必要です。
しかし、
上司が変わっても不満。
同僚が変わっても不満。
職場が変わっても不満。
いつも誰かが悪い。
いつも何かが足りない。
そうなってくると、問題は環境だけではありません。
「世界をどう見ているか」
という、自分自身の認識の問題が大きくなってきます。
人間は、自分の見たい世界を見るものです。
「この世の人間は信用できない」
と思っている人は、信用できない人を探します。
「私は評価されない」
と思っている人は、評価されなかった出来事ばかりを集めます。
「私は恵まれていない」
と思っている人は、すでに与えられているものを見落とします。
そして恐ろしいのは、
そのうち本人にとって「不満のある状態」が普通になってしまうことです。
不満を解決したいのではなく、
不満を語っている自分こそが、自分自身になってしまう。
こうなると、周囲がどれだけ良い助言をしても、なかなか届きません。
なぜアドバイスをしても変わらないのか
「そんなに嫌なら、もっと自分のやりたいことをやればいい」
これは非常にまっとうな助言です。
しかし、何度伝えても動かない。
なぜでしょうか。
ひとつ考えられるのは、
その人が本当に欲しいものが「解決」ではないからです。
もしかすると欲しいのは、
「それはひどいね」
「あなたは悪くないよ」
「本当にその職場はおかしいね」
という共感なのかもしれません。
もちろん、人間には愚痴をこぼしたい時があります。
ただ、それが毎回繰り返されるのであれば、話は違ってきます。
相談しているようで、実際には何も変えるつもりがない。
助言を求めているようで、実際には不満を肯定してくれる人を求めている。
その場合、いくらこちらが真剣に考えても、終わりはありません。
別の解決策を提示すると、
「でも……」
「だって……」
「それは無理だから……」
と返ってくる。
そして再び、
「上司が悪い」
「職場が悪い」
という最初の場所へ戻る。
これは会話ではなく、いつしか不満の循環になっていきます。
あなたが、その人の人生を変える必要はない
今回のペンタクルのキング・逆位置から強く感じるのは、
もう、その人を変えようとしなくていい
ということです。
人は、正しいアドバイスを受けたから変わるのではありません。
本人が、
「もうこんな生き方は嫌だ」
「ここから抜け出したい」
と本気で思った時に初めて動き始めます。
どれだけ素晴らしい言葉を伝えても、
本人に変わる意志がなければ変わりません。
人生には、
他人が入ることのできない領域があります。
そこまで踏み込んで、
「どうしたらこの人は気づくのだろう」
「どうしたら前向きになるのだろう」
と考え続ける必要はないのです。
それは、その人自身が向き合う課題だからです。
距離を置くとは、嫌いになることではない
では、付き合いをやめるべきなのでしょうか。
必ずしも、いきなり絶縁する必要はないと思います。
職場の人なのですから、必要な会話はする。
挨拶もする。
仕事上協力すべきところでは協力する。
ただし、
「不満を聞く人」という役割から降りる。
これは非常に重要です。
また、
「上司がさ……」
「この会社、本当におかしくない?」
という話が始まったなら、
「そうなんですね」
くらいで終えてもいい。
以前のように、
「だったらこうしたら?」
「こんな方法もあるんじゃない?」
と一生懸命考える必要はありません。
実は、アドバイスをするということは、少なからず相手の人生に関与するということでもあります。
何度言っても本人が動かないのであれば、
その責任までこちらが背負う必要はありません。
「感情のゴミ箱」にならないこと
不満の多い人と長く一緒にいると、知らないうちにこちらの心も疲れていきます。
同じ話を何度も聞く。
同じ怒りを受け取る。
同じ否定的な世界観に付き合う。
すると、話をしている本人よりも、聞いているこちらのほうが消耗していることさえあります。
人の愚痴を聞くことそのものが悪いのではありません。
誰かの痛みに寄り添う時間も必要でしょう。
しかし、
寄り添うことと、感情のゴミ箱になることは違います。
そこには境界線が必要です。
「この話はもう何度も聞いた」
「解決策も何度も話した」
「私はこれ以上、この問題に関与しない」
そう心の中で線を引いていいのです。
ただし、相手を裁き始めたら要注意
もうひとつ、このカードから読み取れる大切なことがあります。
それは、
こちら側も相手を裁きすぎないこと。
「どうしてこんなことも分からないのだろう」
「恵まれているくせに」
「また文句を言っている」
そう思い始めると、今度はこちらもその人に囚われてしまいます。
相手が不満を言うたびに気になる。
また始まったと思う。
心の中で相手を評価し続ける。
それでは、物理的に距離を置いても、心理的にはまだ離れられていません。
本当の意味で距離を取るとは、
相手を否定することではありません。
相手の人生を、相手へ返すことです。
その人には、その人の学びがあります。
その人なりの時間があります。
今は不満を言い続けることが必要な時期なのかもしれません。
でも、それにあなたまで付き合う必要はない。
「この人は、この人の人生を生きている」
そう考えて、自分の人生へ戻る。
それでいいのです。
豊かさを見ない人に、豊かさを説明し続けなくていい
ペンタクルのキング・逆位置は今回、
こんなことを語っているように思います。
豊かさを見ようとしない人に、豊かさを説明し続けなくてもいい。
何かを与えられていても、不足ばかりを見る人はいます。
何かに守られていても、不満ばかりを見る人もいます。
それを変えることができるのは、最終的には本人だけです。
だからあなたは、
説得しなくていい。
救わなくていい。
理解させなくていい。
ただ、自分の心を守ればいい。
そして、
相手がどう生きるのかではなく、
自分がこれから何を育て、何を築き、どこへ向かうのか。
そこへエネルギーを戻していく。
ペンタクルのキングとは、本来、自分の人生の大地を耕し、現実の豊かさを築いていく人物です。
他人の不満の庭を手入れし続ける人ではありません。
人間関係には、
そばにいて話を聞くことが愛情になる時があります。
しかし同時に、
もう聞かないことが、成熟した優しさになる時もあります。
今回のカードは、その境界線を示しているのではないでしょうか。
付き合いを完全に断つかどうかを、すぐ決める必要はありません。
まずは一つだけ。
「あなたの不満を引き受ける役」を降りる。
そこから始めてみてください。
人の人生を背負うことをやめた時、
ようやく自分自身の人生を生きるための場所が、心の中に戻ってくるのです。






