あぐり
「話すのが苦手なんです」 ――カップ3逆位置が教える、沈黙もまたコミュニケーションだということ
「なぜか分からないけれど、人と話すのが苦手なんです。どうしたらいいでしょうか」
そんなご相談がありました。
人と一緒にいても、なかなか自分から話しかけることができない。
何を話したらいいのか分からない。
会話の輪の中に入っていくのも苦手。
相談者は、自分でもその理由がよく分からないと言います。
そこでタロットを引くと、出たのは、
カップ3・逆位置。
このカードを見たとき、私は「話し方」の問題というより、
人との間に、どう入っていくか
というテーマなのではないかと感じました。
カップ3は「人と喜びを分かち合う」カード
カップ3の正位置には、三人の女性が杯を掲げて喜び合う姿が描かれています。
仲間。
交流。
共感。
一緒に笑うこと。
人と気持ちを分かち合うこと。
そんな、人と人との間に生まれる温かな循環を表すカードです。
それが逆位置で出たということは、
人との輪の中へ自然に入っていくことに、どこかためらいがある
と読むことができます。
相談者は、話す言葉を持っていないわけではありません。
むしろ、自分の中ではいろいろなことを考えている。
ただ、それを外へ出す前に、
「こんなことを言ったらどう思われるだろう」
「変な人だと思われないだろうか」
「つまらないと思われたらどうしよう」
と、自分の内側へ引き戻してしまう。
つまり、
話すことが苦手というより、人との間へ自分を差し出すことに慎重なのかもしれません。
「いつも自分の中にいる」
さらにカードを引くと、
隠者・正位置
が出ました。
隠者は、一人静かに自分の内側を見つめるカードです。
深く考える。
物事をよく観察する。
表面的な付き合いより、自分自身の内面を大切にする。
これは決して悪い性質ではありません。
むしろ、物事を深く考えられる人だからこそ持つ力でもあります。
ただ、それが強くなりすぎると、人と一緒にいるときにも、
意識がずっと自分の内側へ向いたまま
になることがあります。
「今の言い方でよかったかな」
「何を話せばいいのだろう」
「私はどう見られているのだろう」
そんなふうに、自分を見続けている。
すると、目の前にいる相手との間に流れるはずだった会話が、途中で止まってしまいます。
人と話しているのに、心の中では一人になっている。
それが「話すことが苦手」という感覚につながっているのかもしれません。
過去の経験から、自分から近づけなくなることもある
人との関わりに慎重になる背景には、過去の経験がある場合もあります。
仲間に入れなかった。
話しかけても反応してもらえなかった。
自分だけ浮いているように感じた。
勇気を出して話したのに、傷ついた。
そんな経験が重なると、
「自分から近づいて、また拒絶されたら嫌だ」
という気持ちが生まれます。
そこで、
「相手から話しかけてもらえたら話す」
「相手が自分を受け入れてくれると分かってから動く」
という形になっていく。
自分ではただ静かにしているつもりでも、いつの間にか、
人間関係の始まりを、すべて相手に委ねる
ようになることがあります。
沈黙も、ひとつのコミュニケーション
ここで、とても大切なことがあります。
人間関係では、
何も言わないことも、相手には何かを伝えています。
こちらが、
「本当は話しかけてほしい」
「仲間に入りたい」
と思って黙っていても、
相手から見れば、
「一人でいたい人なのかな」
「話しかけられたくないのかな」
「私には興味がないのかな」
と受け取られることがあります。
もちろん、本人にはそんなつもりはありません。
けれど、人は相手の心を直接見ることはできません。
表情。
態度。
言葉。
行動。
そこから相手の気持ちを想像します。
だから、
「私は誰からも話しかけてもらえない」
という経験の中には、ときとして、
自分自身もまた、相手へ「近づいてきて大丈夫ですよ」というサインを出していなかった
ということがあります。
これは誰かを責める話ではありません。
人間関係は、片方だけでつくるものではないということです。
「声をかけてもらう側」から「一つ渡す側」へ
では、どうすればいいのでしょう。
大きく変わる必要はありません。
急に社交的になる必要もありません。
面白い話をしようとしなくてもいい。
ほんの少し、自分のほうから相手へ何かを渡してみる。
「おはようございます」
「今日は暑いですね」
「それ、素敵ですね」
「どうだったんですか?」
それだけでも十分です。
会話とは、一人で完成させるものではありません。
自分が小さな言葉を一つ差し出す。
相手が一つ返す。
またこちらが返す。
その小さな往復から、人間関係は生まれていきます。
ペンタクルのナイト――変化には、その人なりの速度がある
さらにカードを引くと、
ペンタクルのナイト・正位置
が出ました。
ペンタクルのナイトは、四人のナイトの中でも特に慎重な人物です。
勢いよく駆け出すのではなく、
一歩ずつ確かめながら進む。
だから、この相談者に必要なのも、
「もっと積極的になりましょう」
という大きな変化ではありません。
今日は一回、自分から挨拶してみる。
思ったことを一つだけ口にしてみる。
いつもなら心の中だけで終わっていたことを、一言だけ外へ出してみる。
そんな小さな積み重ねです。
人との関わり方は、一日で変わるものではありません。
けれど、小さな経験が積み重なることで、
「自分から近づいても大丈夫だった」
という新しい記憶が少しずつ増えていきます。
ペンタクル7逆位置――相手が変わるのを待ち続けない
最後に出たのは、
ペンタクル7・逆位置。
このカードは、
「相手や状況が変わるのを、ただ待ち続けないこと」
を伝えているように感じます。
「誰かが話しかけてくれたら」
「もっと居心地のいい場所だったら」
「周りが自分を理解してくれたら」
そう思うことはあります。
けれど、周囲が変わることを待っているだけでは、人間関係はなかなか動きません。
自分から差し出せるものもあります。
それは大きな勇気ではなくていい。
小さな挨拶。
小さな質問。
小さな微笑み。
その一つが、
「私はあなたと関わっても大丈夫です」
というサインになります。
「話せない人」ではなく、「まだ外へ出していない人」
「私は話すのが苦手です」
そう言うと、
自分には会話の才能がないように感じてしまうかもしれません。
でも、本当にそうでしょうか。
隠者が示しているのは、
その人の中には、すでにたくさんのものがある
ということでもあります。
考えていること。
感じていること。
気づいていること。
ただ、それを自分の内側だけで完結させている。
だから必要なのは、別人になることではありません。
自分の内側にあるものを、一つだけ外へ渡してみること。
会話とは、上手な人だけができる特別な技術ではありません。
人と人との間に、
小さな橋を一本ずつ架けていくことです。
そして、その橋はいつも、
ほんの一言から始まります。






