あぐり
社長のお気に入り人事に振り回される会社に、とどまるべきか ――震為雷初爻が告げる“目覚めの雷”
社長のお気に入りの社員を上層部に据える、その役員に抜擢した者の所業には全く無頓着。コンプレックスや競争心の塊の人間を指導者として据えた結果、指導者は育つどころか、有能な人間は黙って去っていくという状態。これ以上、とどまる気持ちになれません。どうしたらいいでしょうか?というご相談。易を立てたところ、震為雷初爻。
結論から言えば、これは
「驚き、怒り、混乱のただ中にいる。しかし、今すぐ感情のままに動くのではなく、まず自分の心身を立て直し、次の一手を冷静に定めよ」
という卦です。
震為雷とは何か
震為雷は、上下ともに「雷」。
雷は、突然鳴り響き、人を驚かせます。
静かだった空気を一瞬で破り、心臓を跳ねさせるような衝撃をもたらします。
今回の相談内容でいえば、
社長のお気に入り人事。
資質を見ずに上層部へ据える組織。
役員に抜擢された人物の所業を、誰も咎めない状態。
指導者として未熟な人物が権限を持ち、有能な人から黙って去っていく職場。
これは、まさに「雷鳴」です。
組織の中で起きていることが理不尽であり、相談者の内側にも、怒り、失望、驚き、虚しさが鳴り響いている。
震為雷は、平穏な卦ではありません。
しかし、ただ悪い卦でもありません。
雷は、人を目覚めさせるものでもあります。
つまり、この卦は、
「もう見て見ぬふりはできない」
という目覚めの卦でもあるのです。
初爻の意味
震為雷の初爻には、次のような意味があります。
震来たりて虩虩たり。後に笑言啞啞たり。吉。
雷が来て、はじめは恐れおののく。
けれども、その後には笑って語れるようになる。
だから吉である。
ここが非常に大切です。
最初は驚く。
心が乱れる。
怒りも湧く。
「こんな会社にいていいのか」
「なぜこんな人物が上に立つのか」
「なぜ有能な人ほど去っていくのか」
そうした疑問で、心が大きく揺さぶられる。
けれども、初爻は最終的に「吉」です。
なぜなら、この衝撃によって、相談者が目を覚ますからです。
これまでどこかで、
「もう少し我慢すれば変わるかもしれない」
「自分が努力すれば何とかなるかもしれない」
「会社もいつか気づくかもしれない」
と思っていた部分があったのかもしれません。
しかし震為雷初爻は、そこに雷を落とします。
この会社は、少なくとも今の段階では、人を育てる組織原理ではなく、社長の感情や好みによって動いている。
この現実を、はっきり見よということです。
「とどまるべきか」への答え
この卦は、即座に「辞めなさい」と命じているわけではありません。
ただし、
この組織に対して、これ以上、正常な育成機能や公正な評価を期待するのは危うい
と告げています。
震為雷初爻の段階では、まだ雷が鳴ったばかりです。
ですから、感情の勢いで退職届を出すよりも、まずは次の三つを整えることが大切です。
第一に、現実認識をはっきりさせること。
この会社は「政策」や「理念」で動いているのか。
それとも「社長の好悪」と「側近人事」で動いているのか。
そこを曖昧にしないことです。
第二に、自分の退路を整えること。
辞めるなら、生活、収入、次の職場、人間関係、実績の整理が必要です。
雷に驚いて走り出すのではなく、雷を合図として荷物をまとめる。
それが初爻の知恵です。
第三に、自分の誇りを会社に預けないこと。
有能な人が去っていく組織では、残った人が正しく評価されるとは限りません。
評価されないから無能なのではありません。
見る目のない場所では、本物ほど邪魔になることもあります。
この卦が教えている核心
震為雷初爻は、こう語っているように思います。
驚きなさい。怒りなさい。けれど、その衝撃に呑まれてはならない。
雷はあなたを壊すためではなく、目覚めさせるために鳴っている。
相談者は今、会社への信頼を失っています。
それは単なる不満ではありません。
組織の根にあるものを見てしまったのです。
人事に理念がない。
指導者の器を見ない。
未熟な競争心を「やる気」や「忠誠心」と見誤る。
その結果、静かに会社を支えていた有能な人たちが去っていく。
この構造が見えてしまった以上、もう以前のような気持ちでは働けないでしょう。
だから、この卦は
「去る準備を始めるには十分な理由がある」
と読めます。
ただし、雷の直後に走るのではなく、雷が鳴ったあとに周囲を見渡す。
そして、自分の進む道を定める。
それが「後に笑言啞啞たり。吉」の意味です。
潜在意識の書き換えとして
この相談者の中には、もしかすると、こうした思い込みがあるかもしれません。
「組織に尽くせば、いつか正当に扱われる」
「理不尽でも我慢することが大人の対応だ」
「辞めることは逃げかもしれない」
「自分がもう少し頑張れば、状況は変わるかもしれない」
しかし震為雷初爻は、その思い込みに雷を落とします。
本当に大切なのは、組織に残ることではありません。
自分の生命力が健やかに働く場所を選ぶことです。
去ることは、敗北ではありません。
場を見切ることもまた、成熟した判断です。
特に、上に立つ者の未熟さによって、有能な人が消耗し、黙って去っていく組織では、誠実な人ほど傷つきます。
その場所で認められないことで、自分に価値がないものと思ってはいけません。
読み解きのまとめ
この卦は、こう読めます。
今の会社に対する違和感は正しい。
組織としての土台、人事の原理、指導者を選ぶ目に大きな問題がある。
ただし、怒りに任せて即断するのではなく、雷を合図として冷静に退路を整えること。
やがて、この経験を「あの時、目が覚めてよかった」と語れる日が来る。
震為雷初爻は、恐れの卦ではなく、目覚めの卦です。
雷は一瞬、心を揺さぶります。
けれど、その音によって、人は眠りから覚めます。
この相談者にとって今必要なのは、会社を変えようとすることより、
自分の人生を、会社の混乱から取り戻すことです。
辞めるにしても、残るにしても、基準はひとつです。
ここにいることで、自分の力は育つのか。
それとも、ただ摩耗していくのか。
震為雷初爻は、その問いに対して、静かにこう告げています。
もう、目覚める時です。
雷は、あなたを罰するためではなく、あなたを本来の道へ呼び戻すために鳴ったのです。






