あぐり
辞めたいのは仕事か、職場か? ――女教皇が教える「静かに自分を守る」ということ
「好きで始めたデザインの仕事なのですが、職場の人間関係で悩んでいます」
そんなご相談がありました。
同僚が、スケジュールを間違えて伝えてくる。
上司からの指示や、大切な連絡事項を伝えてくれない。
一つひとつを取り上げれば、
「たまたまじゃない?」
「忙しくて忘れただけでは?」
と言われてしまいそうなことです。
けれど、それが何度も続く。
しかも、自分だけに起こっているように感じる。
はっきり悪口を言われるわけでもない。
露骨に攻撃されるわけでもない。
だからこそ、
「これは嫌がらせなのだろうか」
と、自分でも判断がつかなくなります。
そして次第に、
「私が気にしすぎなのかな」
「嫌われるようなことをしたのかな」
「この仕事を続けていくのは無理なのかな」
と、自分のほうを疑い始めてしまう。
そんなご相談にタロットを引いたところ、出たのが、
大アルカナ2番・女教皇(The High Priestess)
でした。
このカードを見たとき、私はまず、
「感じている違和感を、簡単になかったことにしなくていい」
というメッセージを感じました。
女教皇は「目に見えないもの」を感じ取るカード
女教皇は、静かなカードです。
感情を大きく表に出すこともなく、誰かと争うこともありません。
けれど、その静けさは鈍感さではありません。
むしろ反対です。
女教皇は、
表面的な言葉の奥。
人が口にしていない気持ち。
その場に流れている微妙な空気。
まだ形になっていない兆し。
そうした、
目には見えにくいものを感じ取る力
を象徴しています。
今回の相談者も、おそらく何かを感じているのでしょう。
スケジュールを間違えて伝えられた。
必要な連絡が自分だけ届かなかった。
一回なら偶然かもしれない。
二回なら、単なるミスかもしれない。
けれど何度か続いていくうちに、
「何か変だ」
という感覚が生まれてくる。
女教皇は、その感覚について、
すぐに結論を出す必要はない。けれど、自分の感覚まで否定しないでください
と伝えているように思います。
「気のせい」と決める前に、事実を見る
こうした微妙な人間関係で苦しいのは、
相手の意図を証明することが難しいところです。
「わざとやったのでしょう」
と言えば、
「そんなつもりはなかった」
と言われるかもしれません。
相手の心の中までは確認できません。
そこで女教皇が教えてくれるのは、
相手の心を推測するより、起きている事実を見る
という姿勢です。
たとえば、
何月何日、どの連絡が来なかったのか。
どのスケジュールを、どのように伝えられたのか。
他の人には共有されていたのか。
その結果、仕事にどんな支障が出たのか。
同じことが何度起きているのか。
こうしたことを淡々と確認していく。
必要なら、記録を残しておく。
女教皇の静けさとは、
何も言わずに我慢する静けさではありません。
冷静に観察する静けさです。
感情に飲み込まれず、
しかし、自分が置かれている状況から目をそらさない。
ここに、このカードの強さがあります。
女教皇は「情報」を扱うカードでもある
女教皇は、知識や情報とも縁の深いカードです。
今回の問題を見ると、
「必要な情報を他人に握られている」
ことが、相談者を苦しくしているようにも見えます。
上司からの指示を、同僚を通して聞く。
スケジュールを、同僚から教えてもらう。
大切な連絡も、誰かが自分に伝えてくれることを前提にする。
もし、その中継役となっている人との関係が悪くなれば、仕事そのものに支障が出てしまいます。
だから可能であれば、
上司からの指示を直接確認できるようにする。
メールやチャットなど、文章として残る形で共有してもらう。
スケジュールも自分自身で確認できるようにする。
つまり、
自分に必要な情報へ、自分でアクセスできる環境をつくっていく。
これも女教皇らしい対処法です。
相手を変えようとするより、
自分が困らない仕組みを静かにつくる。
そのほうが、ずっと自分を守ることにつながります。
「デザインの仕事が嫌になった」と「職場がつらい」は違う
今回の相談で、もう一つとても大切だと思ったことがあります。
相談者は、
好きでデザインの仕事を始めた
ということです。
人間関係でつらいことが続くと、いつの間にか、
「この仕事自体が向いていないのかもしれない」
と思ってしまうことがあります。
会社へ行くのが嫌になる。
仕事のことを考えるだけで気持ちが重くなる。
すると、
「デザインの仕事を辞めたい」
という気持ちが出てくる。
けれど、一度分けて考えてみてほしいのです。
デザインの仕事が嫌なのか。
それとも、
今の職場環境がつらいのか。
これは同じではありません。
女教皇は、物事を静かに切り分けて考えるカードでもあります。
「仕事を辞めるか、我慢するか」
という二択にしてしまう前に、
私は本当はデザインを続けたいのか。
この会社で続けたいのか。
今の人間関係さえ変われば、仕事は楽しいのか。
環境を変えても、デザインそのものは続けたいのか。
そう問い直してみる。
もしかすると、
手放したいのは「好きな仕事」ではなく、
自分を消耗させている環境のほう
かもしれません。
女教皇の影は「黙って耐え続けること」
ただし、女教皇には注意したいところもあります。
それは、
分かっているのに、ずっと黙ってしまうことです。
女教皇は冷静です。
感情を表に出すことを好みません。
その性質が強く出すぎると、
「私さえ我慢すればいい」
「騒ぎにしたくない」
「もう少し様子を見よう」
と、苦しい状況を長く抱え込んでしまうことがあります。
けれど、
静かであることと、何もしないことは違います。
事実が積み重なっているなら、
上司や信頼できる人に相談することも必要です。
そのときも、
「○○さんが私を嫌っています」
と相手の気持ちを断定するのではなく、
「この日に、この連絡がありませんでした」
「この日程をこのように伝えられました」
「その結果、このような仕事上の問題が起こりました」
と、
事実を淡々と伝える。
これも女教皇の智慧です。
騒がず、しかし曖昧にもしない。
感情ではなく、事実を味方につける。
違和感を「知性」に変えていく
人間関係の違和感は、とても扱いにくいものです。
目に見えないからです。
「たぶんこうだ」
という感覚だけでは、周囲に説明することが難しい。
けれど、だからといって、
自分の感覚をすべて疑う必要もありません。
女教皇が教えてくれるのは、
直感か、事実か、どちらかを選ぶことではありません。
まず違和感に気づく。
そして観察する。
事実を集める。
そこから判断する。
直感を、そのまま不安へ育てるのではなく、
直感を、判断するための知性へ変えていく。
それが女教皇の持つ、とても成熟した力なのだと思います。
今回のカードを一言で表すなら、
「騒がず、怯えず、よく見る。そして自分を守る。」
でしょうか。
誰かと戦わなくてもいい。
相手と同じ土俵に降りる必要もありません。
ただ、自分が何を感じているのかを見失わない。
事実を確かめる。
必要な情報は自分でも確認できるようにする。
そして必要なら、静かに助けを求める。
何より、
職場の誰かとの関係によって、自分が好きだった仕事まで嫌いにならないこと。
人間関係の濁りと、
あなたが本当に好きだったものは、
別のものです。
女教皇は静かに座りながら、
その違いを見抜く目を持っています。
今必要なのは、感情を押し殺すことではなく、
自分の感覚を信じながら、冷静に自分を守ること。
そんなことを、このカードは教えてくれているように思います。






