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迦具華リオサ

白衣の天使を食い尽くす悪魔

私は、白衣を着る人を支える仕事をしていた

 

白衣は、人を救うために着るものだと思っていた。

 

清潔で、知的で、優しくて、誰かの命を守るための制服。

 

私は医師でも看護師でもない。
けれど、かつて白衣を着て働く人たちを、裏側から支える仕事をしていた。

 

直接、患者さんの身体に触れることはない。
治療や看護をすることもない。

 

それでも、白衣を着る人が安心して仕事を続けられるように、仕組みを整え、困りごとに対応し、仕事が止まらないように支えてきた。

 

白衣の仕事は尊い。
社会になくてはならない。

 

ずっと、そう思っていた。

 

けれど、近くで見ているうちに、私は少しずつ気づいてしまった。

 

白衣は、人を救う衣装であると同時に、着る人の心を縛る衣装にもなるのだと。

 

白衣を着た瞬間、自分の感情を隠さなければならない

 

白衣を着る人は、患者さんの前で簡単には弱音を吐けない。

 

不安があっても、落ち着いた声で話す。
悲しいことがあっても、笑顔を見せる。
疲れていても、「大丈夫です」と答える。

 

忙しいからといって、命を扱う手を止めることはできない。

 

人手が足りない。
休憩が取れない。
記録が終わらない。
責任は重い。
患者さんや家族から、厳しい言葉を受けることもある。

 

それでも、白衣を着ているだけで、

 

「しっかりしていて当然」
「優しくて当然」
「間違えないのが当然」

 

と思われてしまう。

 

白衣の中にいるのは、特別に強い人間ではない。

 

眠れない夜もある。
泣きたい日もある。
家庭の悩みも、恋愛の苦しみも、将来への不安もある。

 

それでも白衣を着た瞬間、一人の人間である前に、「医療を支える人」として振る舞わなければならない。

 

白衣を支える側にいた私は、その姿を何度も見てきた。

 

表では穏やかに話していた人が、誰もいない場所で深くため息をつく。

周囲には笑顔を見せていた人が、限界ぎりぎりの表情で仕事を続けている。

 

誰かを助ける仕事をしている人ほど、自分が助けを求めることが苦手だった。

 

悪魔は、白衣そのものではなかった

 

私は一時期、白衣の仕事は悪魔のようだと思った。

 

どれだけ献身的に働いても、さらに頑張ることを求めてくる。

 

休みたいと思えば、同僚に迷惑がかかる。
辞めたいと思えば、患者さんを見捨てるような罪悪感を抱く。
弱音を吐けば、専門職として失格だと思ってしまう。

 

けれど、本当の悪魔は白衣ではなかった。

 

悪魔は、

 

「私が我慢すればいい」
「みんなも大変だから休めない」
「この程度で弱音を吐いてはいけない」
「資格を取ったのだから辞めてはいけない」

 

そんな、真面目で正しそうな言葉の中に潜んでいた。

 

責任感が強い人ほど、その言葉に捕まってしまう。

 

優しい人ほど、患者さんの苦しみを背負ってしまう。

 

そして、誰かを守ろうとするあまり、自分を守ることを忘れてしまう。

 

白衣を支える仕事をしていた私も、支える側なら弱音を吐いてはいけないと思っていた。

 

現場を止めてはいけない。
困っている人を待たせてはいけない。
自分の都合より、働く人たちを優先しなければならない。

 

けれど、支える人にも心がある。

 

白衣を着ている人だけではない。
その白衣を洗う人、道具を整える人、システムを管理する人、受付をする人、清掃をする人。

 

医療は、たくさんの名もなき仕事によって支えられている。

 

そして、その誰もが無限に強いわけではない。

 

白衣を守るために、まず中にいる人を守らなければならない

 

白衣の仕事は、悪魔ではない。

 

本来は、人の命を守り、苦しみに寄り添う尊い仕事だ。

 

けれど、使命感や責任感を利用して、人が壊れるまで働かせる環境は悪魔になる。

 

「医療職だから」
「資格があるから」
「人の命を預かっているから」

 

そんな言葉で、苦しさを我慢し続ける必要はない。

 

休むことは逃げではない。
助けを求めることは弱さではない。
職場を変えることも、白衣を脱ぐことも、人生の敗北ではない。

 

私は、白衣を着る人を支える仕事をしてきた。

 

だからこそ、今は強く思う。

 

白衣だけを守ってはいけない。

 

その中にいる人の心を、もっと守らなければならない。

 

患者さんを救う人が、自分の人生を犠牲にしてはいけない。

 

誰かを支える人が、一人で苦しみを抱えてはいけない。

 

白衣を脱いだあなたにも、価値がある。
支える役目を離れた私にも、価値がある。

 

仕事は人生の一部であって、人生そのものではない。

 

白衣を着ていても、着ていなくても、あなたは一人の人間だ。

 

誰かを救う前に、自分を救ってもいい。

 

白衣を支えてきた私が、今いちばん伝えたいことは、それである。

 

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